労務管理

スキーバスツアー事故から見えてくる闇

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長野県軽井沢町で発生したスキーバス転落事故は、亡くなった方の多くが大学生ということもあって痛ましい事故となりました。

 

その後、バスを運行していた会社は、従業員に残業をさせる際に求められている時間外労使協定(36協定)を結んでいないということも分かっています。時間外労使協定を結んでいないからといって残業が無かったとは考えにくいため、ずさんな労務管理だったことが想像できます。

それでは今回の事故は、この会社がずさんな管理をしているために起こった個別の問題なのでしょうか。

バス運転手の労働時間

今回のツアーバスをはじめとして、バスを運転する者については「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)というものが定められています。

この改善基準告知には、自動車を運転する労働者に対する運転時間、拘束時間、休憩時間などの基準を次のように定めています。

4週間を平均した1週間当たりの拘束時間

  1. 4週間を平均した1週間当たりの拘束時間は原則として65時間が限度
  2. ツアーバスなどの貸切バスの運転手については、書面による労使協定を締結した場合、52週間のうち16週間までは、4週間を平均して1週間当たり71.5時間まで拘束時間を延長することができる

1日の拘束時間と休息時間

  1. 1日の拘束時間は13時間以内を基本として、最長でも16時間を限度とする
  2. 1日の休息時間は継続して8時間以上とする

運転時間
1日の運転時間については特定の期間を2日とり、その平均で9時間を限度とする

拘束時間というのは、始業から終業までの間で運転・整備などをしている作業時間と客待ちなどの待ち時間を合わせた労働時間に休憩時間を合計した時間を指します。

休息時間というのは、勤務と勤務の間の時間を指しますが、テレビを見たり、風呂に入ったりという生活するなかで会社に影響を受けない自由な時間をいいます。

結局のところ1日でみると、最長拘束時間16時間と休息時間8時間の合計で24時間ということになります。

バス運転手の実態

総務省が行なった貸切バス会社・運転者に対する調査をみると、1日当たりの拘束時間については運転者の60%近くが違反を経験し、全体平均で17.4時間となっています。最長では22時間超が4.4%ありました。

1日当たりの休息時間については3人に1人が日常的に違反を指摘し、全体平均では7.8時間となっています。

1日当たりの運転時間については全体平均では基準内の7.2時間となりましたが、最大時間をみると、平均11.7時間となり、78%が違反をしているという結果がでました。

それではバス会社が悪いのか

調査結果をみると、多くの会社で改善基準告知を違反する実態があるようです。しかし、単純にバス会社が「ブラック企業だ」で済まされる問題でもないようです。

バス運転手が長時間労働となる背景には、事業者間の値下げ競争や取引先である旅行会社からの運賃・料金の値下げ要求があり、そのため人件費を減らすため交替運転手の削減、長時間労働による運転手への負担の増加があります。

さらには、旅行会社がバス運転者における改善基準告知そのものを理解しておらず、基準違反を前提とした運転スケジュールを要求してくるというケースもあるようです。

旅行会社からみればバス会社は下請け業者という弱い立場であり、格安ツアーという価格ありきの結果、安全面が考慮されていないということにつながっているともいえます。

結局のところ、規制緩和による事業者間の競争、バス会社の労務管理、不当な要求を求める旅行会社、格安ツアーを求める消費者など問題解決までの深い闇が見えてくるような気がしてなりません。

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